#009 アナリストの役割⑤ -12チーム中最下位争いから決勝へ(ローテーションごとのサーブ戦術の構築について)-

「レセプションの苦手な選手を狙う」は戦略、「ここに打ってこういう状況を作ってこういう形で守る」は戦術

 前回おさらいになりますが、前回はサーブの戦略と戦術について整理しました。相手の選手の中に明らかにレセプション(サーブレシーブ)が苦手な選手がいて、その選手がどのようなサーブ(前に落ちる、奥に伸びる、右側、左側など)がより苦手かを分析して、その結果に基づいてそこ(弱点)を狙うのはサーブ戦略です。下のスライドページ内ではタイトル横の「OH#24 > Li#1 > DS(ディフェンススペシャリスト)#7(4) > DS#22」がそれに当たります。チームのサーブ戦略として基本的にはOH#24を狙って崩したり、得点を取りに行くということです。

 その下の「ミーティングシート」の切り抜き内のS1ローテーションを例にとって簡単に見方を説明すると、左上のS1と表記されているところが各ローテーション番号で、シート内ではS1→S6→S5→S4→S3→S2→S1という順番で見ていくとローテーション順に見ることができます。その下には各ローテーションのベースポジション(基本配置)が記されており、相手チームの前衛・後衛の選手や自チームとのマッチアップを確認することができます。その下にはローテーションごとのコンビネーション(攻撃)パターンが記されています。S1ローテーションでは除サーブミス、除アウトオブシステム(OOS)つまりパスが返球されてインシステムの攻撃ができる状態でのサイドアウトが43回あり、そのうちの23回がOP/ RSの16番がレフトからライトへ走るスライド(片足のブロード)、MBの11番がBクイック、OHの24番がレフト平行というパターンとなっています。ピンク色でハイライトされている攻撃種別が最も多くセットされているもので、S1ローテーションではOP / RSの16番のスライドが最も打数の多い攻撃となっています。

 コート図と先ほどのローテーションごとの攻撃パターンの表には①と②で連動した戦術サーブの狙い方が記されています。①はライト側Zone1方向へのサーブです。これはヒューストン大学の得点源となっているOP / RS16番のスライドへのセットが上げにくい形になるということで設定しています。注意書きでは、Zone 5からZone 1方向へのサーブは返球がZone 2方向へ返球される傾向があるため、スライドは使いづらくなることを記しています。②はフロント(前衛)のOH24番がレセプション(サーブレシーブ)に参加しているので、戦略面でのターゲットと一致するため指定しています。それぞれのサーブの狙い方と相手の攻撃を予想し、自チームのトータルディフェンス(ブロックとディグの関係)を構築するディスカッションを各ローテーションで行います。

学生主導、勝利至上主義、アメリカでは?

 大学チームは学生スポーツなので、学生の中で答えを探す力を養うためにこうしたディスカッションの中で自分たちで守り方を議論することが大事です。といってもアメリカの場合、大学スポーツといっても各チームかなりのお金が動いており、ヘッドコーチはその責任を負うのでヘッドコーチの方針に準ずることになります。しかしながらアメリカと日本で感じた大きな違いの一つは日本では大学スポーツに携わる学生を体育会系と呼ぶのに対して、アメリカではStudent Athlete(スチューデントアスリート:学生アスリート)と呼ぶことにも表される「本分は学生である」という認識の違いです。それは試合の前後、移動中、宿泊先のホテル、練習の合間など時間があればパソコンを開き受講科目の課題やノート作成に取り組む姿に見て取れます。チームでディスカッションをする場面においてもコーチ陣はある答えを持っていてそれに導くようにヒントを与えながら話を進めるといった趣旨はなく、コーチ陣は(ボランティアではなく)プロ集団でありそれぞれの考えを持ちながらも、実際に試合をするのは選手だからこそ率直に意見やアイディアを募集するという感覚です。面白いのは日本では自分の意見を否定、とまではいかなくともアイディアなどが採用されなかったときに多少なりとも落ち込む人がいますが、アメリカでは意見は意見、アイディアはアイディアと割り切っていて「それいい、それは違う」という話し合いが積極的になされる点です。日本の場合は意見を言って否定されると損、アメリカでは数うちゃ当たる、自分の意見が採用されたらラッキーという感じですね。

試合を観戦するテンプル大学の選手たち、パソコン片手に課題に取り組むのは日常の風景、椅子に足を乗せるのが当たり前なのもご愛敬(笑)

勝敗だけでなくチームの成長に貢献できるアナリストへ

 アナリストにとって重要なことは、チームが決定した戦略や戦術を評価する水準を作る(言いっぱなしを防ぐ)ということです。勝敗以外にも、例えばサーブに関しては、サーブ効果率やミス率だけでなく、相手チームのS1ローテーションのサイドアウト率を〇〇%以下にするという目標を立て、そもそも上記のサーブ戦術①と②を遂行できていたのかどうか(実施率)、サーブ戦術①と②の両方を実施した場合の効果の比較、それぞれのサーブ戦術を実施した際のトータルディフェンスがブリーフィング時の内容で遂行できていたか(内容)、というように項目分けしてフィードバックしていくと、試合に勝ったとしても負けたとしてもチームとして得られる経験値や成長の幅に大きな差が生まれます。試合に勝つためにいろいろ考えるアナリストというだけでなく、勝敗を超えて「チームを成長させられるアナリストである」ということは、トップチームにおいてもアンダーエイジカテゴリーにおいてもあるいは私のいたテンプル大学のようなこれから発展していくチームにおいても重宝されるのではないでしょうか。言いっぱなしを防ぐためのフィードバック力についてはまた別の機会にお話しできればと思います。試合の時は忙しいけど、試合のないときはやることが少なくて何をすべきかわからないというお悩みを持っている学生アナリストの方は、ここに注目することで365日忙しく、ほかの仕事をする暇もないようになれるかと思います。

次回は、

 少し脱線が多くなりましたが、次回は対戦相手のディフェンス戦術を見ていきたいと思います。いつもお付き合いいただいている読者の皆様、誠にありがとうございます。

 皆様の、今日も明日も明後日も、笑顔がいいね!

 Thumbs Up Smile代表、塚田圭裕でした!

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