#006 アナリストの役割② -12チーム中最下位争いから決勝へ(続き)-

自チームと相手チームの大まかな差を見た後は、相手の特徴をチェック!

 こちらのグラフはヒューストン大学の選手別アタックについて簡単に分析したものです。まずは事実に注目してデータを見ていきます。アウトサイドヒッター(OH)の24番の選手が圧倒的に打数が多く(4試合で208本)、ミドルブロッカー(MB)陣のアタック決定率が高く、特に8番はMBでありながらチームで2番目のアタック得点数を稼いでいます。また決定率に関してはOHの9番とオポジット(OPあるいはRS)の16番の方がOHの24番よりも高いことがわかります。

※アメリカではオポジットを単にライトサイド(RS)と呼称することが多いです。また別の機会でまとめてみてもいいかもしれませんが、例えばサーブレシーブ(Serve receive)についても意外とレセプション(Reception)という語句は使わないで、単にパス(Pass)と呼ぶことが多いです。

事実を積み上げた後に仮説を述べる

 まずは淡々とわかっている事実を述べていきます。その後で、そこから立てられる仮説をチームで考えます。OHの24番の決定率が最も低いにも関わらず打数が圧倒的に多いということは、この選手が前衛の時にヒューストン大学は苦しい状況になっている可能性が高いです。ちなみに後でお見せする、あらかじめ選手に配っているミーティングシート(MTS)にはすでに相手のローテーションが載っており、24番はセッター横の”OH1”と呼ばれるスターティングポジションであることがわかっています。ローテーションごとのデータを見なくても慣れてくればこの時点で、相手のS3やS2あるいはS1といったローテーションが弱いローテーションであり、こちらが連続得点をするチャンスだということが想像できますね。また昨日の「七計(ここではトータルアタック、レセプションアタック、ラリーアタックなどのこと)」の比較でもレセプション(サーブレシーブ)が強みのチームであることはわかっており、ヒューストン大学のMB陣の決定率の高さと関連性がありそうです。ここまでともに成長してきた選手やチームでは、こちらが説明しなくても事実(データ)をもとにこうした仮説を立てる力が備わっており、選手同士の会話から上記のような話ができるようになっています。このような戦術的・戦略的な思考力を育てることもアナリストの役割の一つといえるでしょう。

本邦初公開、塚田式ミーティングシート(MTS)テンプルバージョン!!

 ブリーフィングの資料はまだ続きますが今回はここまでにして、先ほどお伝えしたミーティングシート(MTS)を共有しておきましょう。

 こちらが2021年のアメリカン・アスレチック・カンファレンス(AAC)の準決勝の相手、ヒューストン大学のMTSです。細かいところはまた別の機会に説明しますが、左上にヒューストン大学のスターティングラインナップ、その隣に相手のオフェンス面とディフェンス面の特徴、右上に相手の主要選手のスパイクコース、それらの下にはローテーションごとのレセプション(サーブレシーブ)隊形相手の攻撃パターンなどが記されています。

 こちらはブリーフィング前ではなく、週の初めの練習時に配布しているMTSです。アナリストの作業が完了していない部分があるためドラフト資料となっていますが、選手はブリーフィングまでにこれと”ベーシックスタッツ”と呼ばれる基本的な統計情報と、試合の映像を見ながら自分自身でも対戦相手の分析をしていきます(選手はあくまで学生なので空き時間があればという前提です)。重要なことは、ブリーフィングは講義をただ受ける場ではなく、意見交換の場であり、最終確認の場だということです。

 こちらがすべてのデータ分析の基礎となるベーシックスタッツ(この場合は4試合のトータルのデータ)です。選手が、この基本的な統計情報から先ほどのブリーフィング資料のような事実が読み取れたり、仮説を立てられるようになったりしてくるとアナリストの仕事はぐっと楽に、なるかはわかりませんが、どこに力を注ぐかが変わってきますね。アナリストから与えられたものだけで戦略を立て、戦術を決定してしまうのは、チームとしては損失です。一人で考えるよりも大勢で考える方が様々なアイディアが生まれるからです。最終的なチームの意思決定をするのはヘッドコーチだったり、チームキャプテンだったりするかもしれませんが、いずれにしても言われたことをただ鵜呑みにするのではなく、一人一人が自分で情報を読み取り、考え、そのうえで意見や考え方をすり合わせ決定した戦略や戦術と、誰かの考えを遂行するのでは戦術遂行能力に差が出るであろうことは容易に想像できますね。そうした意味でもアナリストの役割はただデータを提供したり、戦略や戦術を立案したりするのではなく、チームの思考力を高め、選手を巻き込んで意見交換ができる場を作ることであるといえます。

次回は、

 次回はいよいよ実際の試合において自チームのオフェンスはどうするか、ディフェンスはどうするかといったより具体的な作戦の確認をしていきます。

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