#008 アナリストの役割④ -12チーム中最下位争いから決勝へ(続きの続きの続き)-

相手のオフェンスを制限するサーブ、得点を取りに行くサーブ

 サーブの戦術は大きく二つに分かれます。一つは相手のオフェンス、すなわち攻撃パターンを制限したり、限定したりするサーブで、アメリカでは「コントロールサーブ」や「キープ」などと呼ばれます。その呼び名に反して、この戦術サーブは、直接サーブによる得点を取りに行くわけではないだけで、入れていくだけのチャンスサーブとは区別する必要があります。この「攻撃の制限・限定を目的としたサーブ」の評価や予想には単に相手チームの誰がレセプション(サーブレシーブ)が苦手かという表面的なデータだけでは測ることができません。セッター裏と呼ばれるショートサーブや前衛のアウトサイド(OH)のレセプション(サーブレシーブ)における守備範囲を狭くした2.5フォーメーションに対するZone 5へのディープサーブなど、ある程度の枠組みに沿って仮説を立てて、それらを検証していく必要があります。今回は詳細な説明は省きますが、事前情報として、”どこ”に打ったら”誰”がサーブをレシーブして、”どんな攻撃パターン”で”誰がどのよう(どこのコース・強打か否か)”にスパイクを打つのかそれぞれ確率を算出する必要があります。当然対戦相手やマッチアップによっても変わってきますが、仮説の一つを持つということがここでは重要です。そうした確率をもとに自チームとの対戦時にどう対応してくるか予想し、自チームにとって有利な状況を作り出せるサーブ戦術を構築しましょう。

 もう一方のサーブ戦術は直接サーブによる得点、すなわちサービスエースを狙うというものです。こうしたサーブのことは「ストロングサーブ」や「リスクサーブ」などと呼ばれますが、先ほどのコントロールサーブをキープと呼ぶ場合は、ストロングサーブを打った時にサーブミスを出しても構わないかという戦略的(するかしないかという)判断をしていることになるので、リスクサーブは戦略的サーブで、コントロールサーブを戦術的サーブと区別する場合もあります。私がいたテンプル大学では、全てのサーブミスを許容するというチーム戦略のもとでサーブを打っていたので、相手の攻撃パターンを制限・限定するのか、得点を取りに行くのかということは戦術面での思考判断でした。

 上記の表は、データバレーの”ワークシート”機能で作成した表をそのままPowerPointのスライド上に張り付けただけのものですが、ヒューストン大学のOH24番の選手のレセプション(サーブレシーブ)がチームの平均を下回っており、「後効・チーム:R-E%」がチームで最も低い選手であることを示しています。「後効(あとこう)」とは、その選手がレセプション(サーブレシーブ)した”後”のアタック”効”果率のことで、ここではその選手がレセプション(サーブレシーブ)をした後のチーム全体のアタック効果率を表示しています。ちなみに、これとは別の表には、その選手がレセプション(サーブレシーブ)をした後のその選手自身のアタック効果率を示す「後効・人:R-E%」も存在します。「後効・チーム」は対象選手がレセプション(サーブレシーブ)をすることでそのチームのレセプション(サーブレシーブ)からの攻撃が有利になるのか不利になるのかがわかる指標の一つであり、「後効・人」はその選手がパスをした後に自分でスパイクが得意かどうかがわかる指標の一つとなっています。

ローテーションごとのサイドアウト率に注目してリスクをマネジメントする

 アメリカでは、サイドアウト率の基準値が75%(セットの勝利チームは、だいたい4回に3回はサイドアウトに成功している)前後でした。その値を各ローテーションごとに分析し、対戦相手のローテーションごとのサイドアウト率が75%を超えているローテーションに関してはリスクサーブを選択することが必要であるという判断材料の一つになります。サイドアウト率75%の中には相手のサーブミスによるサイドアウト成功も含まれるため、サーブミスをサンプルから除いた「除サイドアウト率」で評価することもできます。あるいは、サイドアウト率や除サイドアウト率が高いといっても、それがレセプションの返球が成功しているからかどうか判断する必要がある場合は、Aパス時サイドアウト率、Bパス時サイドアウト率、Cパス時サイドアウト率というように細分化して分析していきます。こうした詳細な分析をすることで相手のサイドアウト力に応じて、戦術サーブを用いるのか、戦略サーブを用いるのか判断しやすくなり、ただ闇雲に強いサーブを打ちましょうという考え方から一歩前進することができます。

 「すべてのサーブミスを許容する」というのは常に攻めるというメンタル面での貢献を視野に入れており、その考え方のもとでサーブを打ってサーブミスをした後の切り替え、すなわち自チームのサイドアウト率の向上に寄与するのではというのは非検証段階なのでひとまず今後の課題としておきましょう。

次回は、

 次回もサーブの戦術・戦略論を引き続き見ていきましょう。特に試合においてはリスクを負わずに得点する確率を高められるに越したことはありませんので、どこにサーブを打つべきかという戦術的思考を構築する方法を考えていきたいと思います。

 

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