ディフェンスの基本戦術・シフト(隊形)を知ることで有効なオフェンス戦術を見つけやすくする
相手のディフェンスに明らかに穴になる選手がいる場合は、その選手を狙うという戦略で臨めば事足りる場合もあるでしょう。例えば身長が低い選手やジャンプ力のない選手などブロックの穴になる選手です。あるいはまったくディグ(スパイクレシーブ)のできない選手がいる場合です。しかしながらよりレベルの高いチーム同士の試合ではそうした著しい差はなくなってきます。そうした狙いどころになる選手が決まっていない相手の場合はディフェンス戦術に応じたオフェンス戦術を構築する必要があります。
上記の3つのディフェンス隊形は、アメリカの大学チームや私がまだV1チームに所属していた時に見られた基本的なディフェンス隊形です。日本では左側から順に”シックスダウン(マンダウン)”、”ボックス”、”ダブルライン”などと呼ばれており、アメリカではそれぞれ”ペリメーター(周長、周囲を意味する名詞)”、”ローテーション”、”ツーマンセル”となります。
シックスダウン、ペリメーターディフェンス
シックスダウン・ディフェンスの呼び名は、ミドルバックの位置でディフェンスをするP6*(ポジション・シックス)の選手がP5(ポジション・ファイブ)とP1(ポジション・ワン)の選手よりも後方に下がってディフェンスすることからそう呼ばれます。アメリカでは基本中の基本のディフェンス隊形ということで、Traditional Perimeter Defense(トラディショナル:伝統的・ペリメーター・ディフェンス)と呼ばれることもあります。ブロック戦術についてはここでは詳細を割愛しますが、主に現代バレーにおける高速化、高度化、高身長化に対応するのに最もオーソドックスな陣形となっており、9m四方のコートのサイドラインから50cmを捨て、コートを狭く守るバンチリードブロックを用いたトータルディフェンスの型に適しています。
ボックス、ローテーションディフェンス
ボックス・ディフェンスはその名の通り、完成した陣形が箱型になるところからその名で呼ばれ、アメリカでは反時計回りにディガーが移動することからローテーション・ディフェンスと呼ばれています。ボックスの長所はコートを広く守るところと、ティップ(フェイント)への対応含めディフェンスの役割分担がはっきりしているところです。シックスダウンではティップ(フェイント)の対応をフロントレフトにいるP4の選手が行うのか、バックライトにいるP1の選手が行うのかはっきりしていません(チームでの追加の約束事が必要です)が、ボックスではP1の選手がブロックの真裏にいることでティップ(フェイント)の対応をすることが明確になっています。また相手レフトからのスパイクで、ストレートに打たれたボールについてもP6の選手がZone 1方向にシフト(移動)しており、この選手がストレートを対応することがわかります。このようにシックスダウンは臨機応変な対応、ボックスは役割分担がはっきりしているというそれぞれの利点が少し見えてきたかと思います。ちなみにボックスのデメリットは、ブロックが相手レフトからのスパイクのストレートコースをおさえる必要があり、各ディガーがシフトするのに時間がかかることから、いわゆる「高速バレー」への対応には不向きといえます。
ダブルライン、ツーマンセルディフェンス
三つ目のダブルラインはライン(ストレート)方向にディガーを二人配置することからこのように呼ばれます。ライン側に二人、クロス方向にも二人のディガーが配置されることになるのでツーマンセルディフェンスとも呼ばれます。こちらは実は基本のディフェンス隊形というよりは応用形で、特にアメリカでは一般的ではありません。なぜならダブルラインが用いられるのは、自チームのライトブロッカー(P2)と相手レフトからの攻撃にミスマッチがある状態で、日本人セッターといわゆる外国人エースとのマッチアップ時がわかりやすい例です。このようにダブルラインのような基本形とまでは言えないまでも、いくつかのディフェンス戦術についてチーム内で共通認識を持つことで、試合中例えば相手レフトからの攻撃に対応できていない時に、シックスダウンからボックスに、あるいはダブルラインに戦術を変更するということがひと言で、時にはハンドシグナル(サイン)一つで変更することができます。作戦ボードなどを使って一人一人のディフェンス位置を修正するよりも時間がかからないので、いちいちタイムを取って説明するということが必要なくなるという点も大きなメリットになります。
*ポジションの呼び名:セッターからのサーブ順でP1がセッター(S)、P2がアウトサイド(OH1)、P3がミドルブロッカー(MB2)、P4がオポジット(OP / RS)、P5がアウトサイド(OH2)、P6がミドルブロッカー(MB1)となります。ポジションを位置で呼称する際の呼び方がP〇で、ポジションを役割で呼称する際の呼び方が( )内の呼び方になります。ちなみにOHとMBはコート内に二人存在する場合があるので、セッターと隣り合わせの選手がOH1、MB1と呼ばれています。ポジションを位置で呼称することでスターティングポジションだけでなく、ディフェンス時に守る場所を示すことができます。
スターティングポジション
_________________________
P4(OP) P3(MB2) P2(OH1)
P5(OH2) P6(MB1) P1(S)
ディフェンスポジション(例)
_________________________
P4(OH1) P3(MB2) P2(OP)
P5(Li) P6(OH2) P1(S)
ディフェンス戦術に応じた基本的なオフェンス戦術の決定
上記のスライドはヒューストン大学のディフェンスの特徴をまとめたスライドです。ヒューストン大学はペリメーターディフェンスかつスプレッドブロック(両サイドのブロッカーがサイドライン側に予め寄っているブロック隊形)のチームで、サイドのブロッカーによるヘルプ(クイックに対してのブロック:アシストともいいます)がほとんどないチームです。そのため自チームのMB陣はいずれのクイック攻撃でも容易に1対1以下の状況を作ることができる可能性が高いことが考えられます。パイプ攻撃(コート中央からの2ndテンポのバックアタック)も同様に有効と考えられます。さらに直近4試合の統計データからセッターの18番が最もディグ成功率が低く、映像分析によってセッターとしてはディグ力が低いところが見受けられます。このような場合は一本目をセッターに触らせるだけでも効果的なことから基本的にはZone 1方向への攻撃が最も有効な攻撃であると考えられます。
オフェンス戦術のフィードバック例
下図はデータバレー2007で出力したヒューストン大学戦の試合後の自チームのスパイクの決定打を視覚化したディレクションチャートになります。攻撃の進行方向が逆になっているので少し見づらいですが、ブリーフィングで示したレフトやパイプ攻撃によるZone 1方向へのスパイクが黒塗りでハイライトされているのが見て取れるかと思います。このように視覚化されたグラフや表を試合後に使用するのであれば反省(改善)用に、試合中に使用すれば修正用に利用することができます。ちなみにこのディレクションチャートからはMB陣の攻撃の割合が19%(チームの目標値は25%)と比較的クイック攻撃を使っており、レフト(32%)よりもライト側(37%)の攻撃の割合が多い点も評価できるポイントといえます。
事実を基に仮説を立てることで、フィードバックのスピードを上げる
これまでの繰り返しになりますが積み上げたデータ、すなわち事実に基づいて戦略を立て、戦術を立案し、チームの共通認識を図り、試合中や試合後のフィードバックの即応性を上げていきましょう。データを扱ううえで最も重要なことは当然ながら正確性であり精度です。間違った情報では「事実に基づいて」行動することはできないからです。とはいってもデータは生ものですので、スピードも大事です。収集したデータから必要な情報をくみ取り、フィードバックをするというサイクルを繰り返し繰り返し行うことでアナリスト自身の分析力を上げることができ、チームでのデータやアナリストの重要度も上がっていくことでしょう。